【書評】篠田道夫 著『大学戦略経営の核心』/『戦略経営111大学事例集』

kakushin_cover4C_1208jirei_cover4C_1208【書評】篠田道夫 著『大学戦略経営の核心』/『戦略経営111大学事例集』

IDE 現代の高等教育 No.593 p.71 より

荒れる夜の海を照らす灯台––大学経営戦略の模索

 この数十年間、国公私立いずれの大学も荒れた海を航海する船のように様々な困難に揺さぶられ続けている。特に地方中小規模の私立大学の危機的状況は深刻で、定員割れは続出してどのように努力していいのか途方に明け暮れている大学も多いのではないか。文科省も地盤沈下で力なく、中教審のきれいな文章を見てもどうすればいいのかよくわからない。結局頼りになるのは自分自身であり、自分の大学の進路は自分で見出すしかないのだろう。その進路を照らす明かりが大学経営戦略であり、この数十年の模索を経てようやく完成されつつある。

 篠田道夫氏は、日本福祉大学職員を長く勤められ、事務局員、理事を経験された。現在は桜美林大学大学院教授、大正大学特命教授として大学経営人材の育成に当たられるとともに、日本私立大学協会附置私学高等教育研究所や中央教育審議会で活躍中である。精力的に執筆活動を重ねており、2010年には『大学戦略経営論』(東信堂)を刊行し、大学に戦略経営の考え方が必要であることを提唱した。篠田氏の主張は、自身の大学での経験に裏打ちされるとともに、実態調査や多数の地方中小規模私学を実際に訪問し、対話し、分析して見出した考えを理論化している点に特徴がある。地に足の着いた説得力のある、しかもわかりやすい文章が展開されている。

 この度前著に続くそれぞれ350ページの大著が2冊刊行された。いずれも大学の現場で苦闘する者にとっての指針となり励ましとなるほんであるので紹介したい。

断崖の上から進路を俯瞰する––『大学戦略経営の核心』

 ①中期計画の策定と着実な推進が何よりも必要である。計画は書かれるだけではだめで、実行されなければならない。そのためには何をすれば計画を達成したことになるのかという達成数値を明確にし、達成状況を点検評価し、次の目標設定につなげていかなければならない。10年単位の長期目標と、数年単位の中期目標と、年度目標を連結させて設定する。そして、全学の計画、学部学科の計画、事務局各部各課の計画をリンクさせる。それは教員と職員の個人の目標設定とリンクしていく。このようにしてマネジメントのサイクルが回りだす。

 ②戦略的に計画を推進していくためには、トップの優れたリーダーシップがけん引するとともに、現場からの優れた提案が生かされる必要がある。そのためには現場の教員と雄職員が協力して創造的な提案を作り、トップを支える企画部門がその結節点となって大きな役割を果たす必要がある。トップダウンとボトムアップが両方動き出す。

 ③組織運営、経営改革のため、経営体制や事務局改革に本格的に取り組む必要がある。財政、人事制度、人件費改革など抵抗を排して進めなければならない。そのため、職員を改革の推進者として育成し、先駆的・体系的な職員育成制度を構築し、大学運営に職員の参画を生かし、職員が改革の推進者として活躍する状況を作り出す。

 ④教育改革、質向上については、教学マネジメント体制を構築・強化し、達成目標を明確にして取り込む。徹底したFDと組織・運営改革の断行で教育改革を進める。

 ⑤学生支援については、徹底した学生成長支援が求められる。入り口から出口までエンロールマネジメントで学生育成を行い、IRを活用し教育の改善に成果を上げる。

 ⑥学部再編や連続的な学部学科の増設など、伝統とその革新の両立で改革を進める。全国に通用する強い特色作りにこだわり、広報戦略の見直し強化を進める。これらの連続的な改革の積み上げで定員割れを改善・克服し、志願者のV字回復を達成した大学も出てきている。

 このように、短い単語を連ねると何やら難しいことをするようだが、一つ一つは我々も取り組みたいと願っていることだ。要するに、基本的な取り組みを一つ一つ愚直に行っていくこと、それができるかどうかだ。

満天の星(他大学の好事例)が進路を照らしてくれる––『戦略経営111大学事例集』

 この大学業界では、それぞれの経験や取り組みを比較的率直に教えてくれる美風がある。

 とはいっても、それを聞き出すためには、聞く方もそれなりの準備をして問題意識を明確にしておく必要がある。篠田氏はこの10年以上をかけて111大学を回り、丁寧な聞き取りとデータ収集、要を得たまとめの作成を積み重ねてきた。各大学が危機の時代をどのように乗り越えようとしてきたか、貴重な記録である。大学によって事情は様々で同じものはないが、並べてみるとある程度のパターンは見えてくる。良いじれいしゅうができたものだ。

 慾を言えば、達成事例が多いが、十分達成できなかったこと、うまくいかなかったことなど、聞きにくい言いにくいことではあるが、もう少しあったらさらに参考になるだろう。

(注)本稿の小見出しの言葉は3冊の本の表紙のイメージからとった。

上杉道世(大正大学 理事長特別補佐・質保証推進室長/大学マネジメント)

大学戦略経営の核心』『戦略経営111大学事例集

【東信堂 本体価格各3,600円】

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