【書評】高野篤子 著 『イギリス大学経営人材の養成』

IDE 2018年11月号 Book Review

大崎 仁より

本書は、イギリスにおける、大学の経営人材養成のシステム・内容について、包括的に調査分析を行った成果である。なかなか進展しない我が国の大学経営人材養成に多くの示唆を与える労作である。

本書の価値は、イギリスの大学経営人材養成全体を俯瞰し、大学院における養成、大学関連団体による研修、個別大学の学内研修のそれぞれについて詳述している点にある。特に注目されるのは、大学院における養成コースの記述である。大学職員の養成・育成のキーポイントは大学職員の専門性をどう考えるかにあるが、大学院の養成コースの内容が大学職員の専門性解明の大きなカギとなるからである。

著者はこれを大学院における「高等教育プログラム」として取りあげている。大学院の高等教育プログラムにより取得する学位が、大学管理運営職の職業資格として機能しているアメリカの状況を、望ましいモデルと考えてのことのようである。しかし、著者自身が認めるように、イギリスの大学院においては明確な高等教育プログラムを選び出すのは難しく、イギリスの高等教育プログラムの多様性を確認する結果になっている。修士課程も博士課程も養成コースは、経営系と教育系と二つの系統があり、数的には教育系が多数を占めているようである。経営系の少なさは、企業と異なる大学の管理経営の特殊性を定式化する難しさの反映とも見られる。

興味深いのはむしろ個別事例の紹介である。特にロンドン大学のIOE(教育大学院)の高騰教育MBA(経営修士)コースは、ウォーリック大学の事務局長として業績を挙げたマイケル・シャトック教授が深く関与したといわれ、大学管理職養成の一つのモデルとして、わが国の関係者にも大きな参考になるはずである。入学には原則大学での職務経験が必要とされていることも、この種のコースの在り方を示すものであろう。

まだ、博士課程でもバース大学のDBA(経営博士)コースやバプール大学のEd.D(教育博士)コースの詳細な紹介も興味深い。コース在籍者が前者約150人、後者300人、うち留学生が半数前後という人気ぶりには驚かされる。

大学関係団体の行う研修事業については、大学職員全体を包括する大学職員協会と政府主導で創られた高等教育リーダーシップ財団の事業が紹介されている。

大学職員協会の研修事業で特に注目されるのは、オープン・ユニバーシティー(放送大学)と提携して実施しているというサーティフィケイト(履修証明)プログラムである。受講者の主体的学習を重視し、各受講者に現職のマネージャーやアドミニストレーターがメンターとして付き、助言に当たるという。修了者にさらに修士課程での職能開発を奨励しているという点に、研修事業を修士課程につなげようとする関係者の意欲が読み取れる。

高等教育リーダーシップ財団は、イギリスの特色を体現した組織である。イギリスでは、大学は政府の腕の届かないところに置くという強い伝統がある。そのため大学関係の事業は、政府から独立した公的団体に委ねるのが普通であり、リーダーシップ財団もその一つである。リーダーシップ財団設立の提唱者は政府であり資金援助もしているというが、各大学がメンバーとして会費を払い運営している組織である。財団設立当初関係者の話を聞いた記憶では、手探り状態という感じだったが、本書によれば、現在は大学の管理職の類型ごとにプログラムを設け、充実した研修を行っているようである。トップマネージメント・プログラムは受講料約250万円という。

日本でも、大学教職員の資質向上が政策課題になって久しいが、イギリスがリーダーシップ財団という研修組織を作って、運営を大学コミュニティーに任せるという手法を取っているに対し、日本では、大学設置基準で個々の大学に研修などを義務付けるというような手法が目立つ。実質的効果の差は明らかである。

ちなみに、大学設置基準は本来、施設・設備、教員組織等大学が備えるべき条件を定めるもので、大学の運営方法を定める運営基準ではない。学校教育法で委任されている学位授与関係は別として委任されている学位授与関係は別として、法律の委任なしに運営上のあれこれを義務付けようとするのは問題である。

著者の問題意識は、日本で大学の事務職員が大学管理運営の枢要な任務を担うためのキャリアパスをどう形成するか、ということであろう。日本と英米との比較の観点が随所に見られるのも、この問題意識の表れと思う。日本の状況をどう改善していったらいいか。本書の刊行によって関係者が新たな視点でこの問題に取り組む機運が高まることを期待したい。

(IDE大学協会 副会長)

[東信堂 本体価格2,700円]

旧サイトはこちら

ページ上部へ戻る