【書評】東京大学 大学経営・政策コース編『大学経営・政策入門』

東京大学大学経営・政策コース編『大学経営・政策入門』

IDE 2019年4月号 Book Review

小方直幸より

本書は、東京大学大学院教育学研究科大学経営・政策コースが企画・編集した大学経営・政策のテキストである。全12章構成で、第1章~第3章では、現代の大学がおかれた状況を概括した後、大学の制度・政策の歴史的展開と現代的特質を紹介している。続く第4章~第6章では、組織、人事、財務という大学経営の屋台骨となる基本構造に焦点をあて、第7章~第9章においては、学生募集や教育・研究という機能面から、そのマネジメントのあり様を概説している。これらを受けて第10章と第11章では、国際的な視野から大学経営・政策の変遷や潮流を整理した後、第12章で、大学の経営・政策の将来を展望している。大学の経営と政策は、経営が政策に与える影響、また政策が経営に与える影響とういうように、両者が双方向に影響を及ぼし合う領域である。また両者をめぐっては、同調すればよいものでもなければ、批判し対峙していれば済むものでもない。加えて両者の関係は、時代と共に変遷するものであり、決して固定的なものでもない。

海外には、大学の経営・政策を扱った書籍として例えばASHE(The Association for the Study of Higher Education)のリーダーシリーズがあるがこれは論文集で、同様な取り組みとして我が国でも2010~2011年にかけて『リーディングス日本の高等教育(全8巻)』(橋本・阿曽沼企画編集、玉川大学出版部)が刊行されている。また専門誌として、OECDのIMHEが2012年まで発行していた”Higher Education Management and Policy”や1979年発刊の”Journal of Higher Education Policy and Management”, IAU(International Association of Universities)が1988年から刊行する“Higher Education Policy”がある。これらは研究者だけでなく、政策立案者が大学の経営者も読者層に想定しているが、初学者向けとはいい難い。コースのスタッフは、教育・研究の実践に日々参画する過程で、大学・経営に関わる入門書の必要性を痛感してきた。企画段階から時間も要したがここに出版の運びとなった。

高等教育に関わるテキストの歴史は浅い。我が国で初めて誕生したのは、2005年に出版された『高等教育概論』(有本・羽田・山野井編著、ミネルヴァ書房)である。そのまえがきには「大学や高等教育について教えたり、学んでみたいと思われる方々のために編集された」とあり、高等教育関係者を要請する大学院として我が国で初めて設置された広島大学・高等教育研究開発センターの大学院社会科学研究科国際社会論専攻(1986設置)が、教育学研究科高等教育開発専攻(2000設置)へと整備拡充されることに併せて企画されたものである。学問の制度化が、大学における持続的な教育・研究の実施→テキストの作成→学問体系を修得した集団の再生産というサイクルを辿るとすれば、『高等教育概論』の誕生は必然でもあった。

『高等教育概論』は残念ながらその後、版を重ねることはなかったが、放送大学の教材として2008年に出版された『大学と社会』(安原・大塚・羽田編著)は、内容的にもその後継に位置づけてもよいと思われるものである。また本書を扱う題材が比較的近いものとして、同じく2008年に『大学のマネジメント』(山本・田中編著)が出版され、2014年には『大学マネジメント論』(同)として改訂版が出されている。我が国の高等教育のテキストの歴史は10数年足らずに過ぎないが、放送大学教材としてもその地歩を固めつつあり、より多くの方が興味・関心を持ち学ぶ専門分野へと成長している。

並行して21世紀に入ると名古屋大学、桜美林大学、東京大学にも高等教育の大学院プログラムが立ち上がり、大学における高等教育分野の人材育成の場が拡がった。大学院以外のプログラムまで含めれば、より多くの規模で、各大学・地域で様々な高等教育に関わるプログラムが開発され、貴重な実践が行われている。本書はこれらに関わってこられた先人、関わっている同僚や仲間、そしてそこで学んだ・学んでいる・学ぼうとしている方々から直接・間接に教えを請い、支えていただきながら編まれたものである。

本誌を手にしている読者の皆さんに現場では、今現在も、実践者、政策担当者、そして研究者が共に悩み、ある時は手を取り合い、またある時は反駁しながら奮闘を続けている。それに対して、本書に限らずテキストというものは、解決を約束するものではないし、病を治すあるいは癒してくれる特効薬でもない。本書を執筆した私達ができるのは、大学の経営・政策をめぐって、これまで起こってきたこと、そして今起こっていることを、できるだけ客観的に把握し理解する術を広く提供することである。それにより、大学をめぐる経営や政策の現場における個別具体の諸経験や知恵といったものが、共通の用語や概念を通して語られ理解され、共有そして交換される場としてのアゴラを形成する契機となれば幸いである。もっとも、そのためにはテキストもまた生き物であり、適宜改訂されていく必要がある。本書は初めての試み故の至らぬ点も多いと思われる。読者の方からの忌憚のないご批判等もいただきながら、共に育てていければと願っている。

(東京大学 教授/高等教育論)

[東信堂 本体価格2,400円]

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