【書評】江原武一『大学は社会の希望か』

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【書評】江原武一『大学は社会の希望か

IDE現代の高等教育 No.574 国立大学法人第3期を考える 2015年10月号より (2015年10月1日)

 タイトルからは大学の理念を論じる哲学的な書を想像したが、読んでみると大違い。抽象論は皆無で、始めから終わりまですべてが具体的、実務的である。この本で扱われるテーマは、大学教育の改革、大学の管理運営、大学評価の改革、の三点に集約される。

 全編を通じて、本書にはいくつかの際立った特徴が見られる。第一に、全体が論理的な階層構造に基づいて構成されているため、個々の具体的な問題が全体の中でどのように位置づけられるか常に明確でわかりやすい。はじめに本書全体や各章の構成について解説し、それに続いてそれぞれの項目ごとに課題として取り上げる概念をきちんと定義しながら、その現状、由来、将来の方向性などについて論を進めるので、議論が脇道にそれることがないのだ。

 その反面、反復が多く、読み進むうちにもどかしさを感じることもある。だがそうした繰り返しは著者の行き届いた配慮の表れと見ることもできるだろう。そうすることによって読者は内容をより確実に理解できるようになるからだ。教室で噛んで含めるような丁寧な講義を聴いているような気分になるのである。

 第二に、何について論じる場合でも、論じようとするテーマについて、その意味を明確に定義することからはじまる。たとえば、「教養教育とは…」、「専門職業教育とは…」、「管理運営とは…」、「大学評価とは…」といった具合に定義付けをしてから論を進めるのだ。そうすることで今何について論じているかが常に明確になり、誤解の生じる余地がなくなる。いかようにも解釈できるあいまいな用語が巷に氾濫しているだけに、著者のこうした配慮は極めて教育的と言える。

 第三は、それぞれのテーマについての現状と問題点がわかりやすく説明されていることだ。どんな改革でも、まず現状を正確に把握し、問題点を明確にすることから始めなければならない。それなしに問題の解決は望めない。本書は現状の問題点を誰にもわかるように説明してくれる。その際、欧米の状況とも対比しながら説明されるのでなおわかりやすい。しかも、全編を通じて、記述は客観的で、極論に走らず、問題の両面に目配りの効いたバランスのとれた内容となっている。その意味で本書は、大学改革についての優れた教科書である。

 第四に、著者は現状の問題点を指摘するだけでなく、それぞれのテーマについて、今後目指すべき方向性や具体的な取組についても自身の考えを随所に述べている。たとえば、教養教育の授業の一部は学部所属の専任教員に正式に担当してもらうべし、補習教育や基礎学力の向上を目指す科目も正式に教養教育科目に含めるべし、といった提言がそうである。あるいはまた、管理運営の改革については、①同僚性が不可欠、②日本型の実践的な管理運営組織の整備、③大学アドミニストレータの育成が重要といった指摘をしている。評価の問題についても多くの改善策が具体的に提示されている。こうした具体的な方策の提示は、現場の担当者にとっては大いに参考になる。

 このように、本書は大学改革の教科書であると同時に、改革に向けた取組方策をわかりやすく解説した実務者向けの手引書といった性格を備えている。
だがそれにしては、本書のタイトルが今一つ理解しがたい。タイトルだけを見れば、グローバル化社会における大学の社会的使命とは何か、大学の教育や研究はどうあるべきか、そのためにはどのような大学制度が求められるのか、などといった大学政策論を想像したくなるが、本書ははじめからそのようなことを意図して書かれたものではない。

 著者自身が断っているように、本書では大学の研究機能については触れていないし、本書で取り上げる大学教育改革の課題とは、教養と専門の大学教育をどのようにして学部と大学院に区分し再編するかということに尽きる。 本書はこのように狭い範囲に限定された大学教育改革と、管理運営体制および評価の仕組みに関わる問題に的を絞った大学改革論なのである。「日本の大学改革のゆくえ」と題した最終章も、大学教育や大学制度そのものの将来を展望したものではなく、①大学の制度的自律性の確保、②明確な将来構想にもとづく大学政策、③個別の大学における自立的主体的な大学改革、という三つの観点からそれまでに述べてきた実務的な課題を整理し直したにすぎない。

 しかしこのことは決して本書の価値を損なうものではない。本書は現在進行中の改革の現状と問題点および今後取り組むべき課題について、十分に有益なヒントを与えてくれるはずだ。大学改革の実務に携わる人たちに薦めたい本である。

大学は社会の希望か

(拓殖大学  名誉教授/教育行政 草原克豪 評) seo analysis website .

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