【書評】谷口恭子著『森林資源管理の社会的合意形成—沖縄やんばるの森の保全と再生—』

【書評】谷口恭子著『社会的合意形成—沖縄やんばるの森の保全と再生—

森林計画誌 52 No.1 ’18 書評より

本書は、わが国有数の亜熱帯林である沖縄本島北部「やんばるの森」をどう守り、地域のために活かしてゆくのかというテーマに取り組んだ実践とその理論的考察の成果である。著者が目指したのは、森林をめぐる対立・紛争解決のための「国頭村森林地域ゾーニング計画」策定過程を対象とした客観・理論的考察に基づく社会的合意形成のプロジェクト・マネジメントの実践である。

内容は、序章と終章に加えて全9章からなる3部を加えた構成であり、第Ⅰ部(1章~4章)では森林の保全と利活用における合意形成の課題について述べている。具体的に歯、やんばるの森の森林管理の歴史、自然資源と文化資源の価値、森林資源の保全と利活用、森林資源管理に関する合意形成の概念と森林計画制度等に基づく合意形成を扱っている。第Ⅱ部(5章~8章)では第Ⅰ部で明確になった課題について、「社会的合意形成プロジェクト・マネジメント」という手法を用いて、基礎自治体により策定された「国頭村森林地域ゾーニング計画」の具体的な内容とその意義について論じている。第Ⅲ部(9章)では今後の持続可能な森林資源管理の課題について、世界自然遺産登録、森林業、地域を主体とした森林管理の視点から示している。これだけ幅広い内容をコンパクトにまとめ挙げたのは生態学・環境教育学・社会的合意形成という多様な研究背景を持ち、かつ、コンサルタントとしての実務経験を持つ著者だからこそできたことであろう。

本書の肝である「社会的合意形成プロジェクト・マネジメント手法」については、5章にその一部概略を示すとともに、「国頭村森林地域ゾーニング計画」を実践の場とした具体的な情報(検討委員一覧、スケジュール工程、ワークショップ開催等)が示されているため、計画策定実務者が手段をイメージしやすく実践的な情報として役立つと考えられる。ただ、僅か40頁ほどの情報から「社会的合意形成プロジェクト・マネジメント手法」全体を理解するのはなかなか難しい。著者も指摘しているように、合意形成プロセスにおける方法論は、地域特性、プロジェクトの内容によって様々である。この点については、著者の紹介する「社会的合意形成プロジェクト・マネジメント手法」(桑子 2011)などを併せて読むことで、より理解が深まるだろう。

著者が対象とした「やんばるの森」は、森林資源管理に関する合意形成プロセスの研究対象地としては国内では特殊事例であるもの、グローバルな視点でみると東南アジア地域共通の亜熱帯林の資源管理に関する典型事例といえる。この点が、本書の特殊性の一つでもあるが、現場・実務者としての視点からまとめあげられた本書の中には、こんごますます必要とされるであろう地域の森林管理に役立つヒントが随所にちりばめられていると感じた。

(宮本麻子 評)

森林資源管理の社会的合意形成

【東信堂 本体価格5,800】

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