【書評】ダイアン・ラヴィッチ著/末藤美津子訳『アメリカ 間違いがまかり通っている時代』
比較教育学研究第53号 p.165 書評 より
アメリカ史研究の泰斗ローレンス・A・クレミンに師事したダイアン・ラヴィッチ(Diane Ravitch)は、代表作の一つである The Troubled Crusade: Amwrican Education, 1945-1980 (New York: Basic Books, 1983) (末藤美津子訳『教育による社会的正義の実現——アメリカの挑戦(1945~1980)』東信堂、2011年)において、第二次世界大戦後、平等や構成の実現を目指して苦難の道をたどっていったアメリカの教育状況を描いた。
その後、教育内容への関心を深め、スタンダードを設定し教育の質の向上を図ることに力を注いでいったラヴィッチは、1990年代初頭にジョージ・H・W・ブッシュ大統領のもとで教育次官補に任命され、スタンダード運動を推進し、テスト、アカウンタビリティ、学校選択に基づく教育改革を主導し、2002年の No Child Left Behind Act(一人も落ちこぼれを出さない法:NCLB法)の成立に尽力した。こうした経歴を踏まえた加野jは、定説となっている見解とは異なる教育史、つまり、進歩主義教育とそれへの対抗勢力の立場を逆転させ、反進歩主義教育の見解と功績を軸とするアメリカ教育史として Left Back: A Century of Battles Over School Reform (New York: A Touchstone Book, 2000)(末藤美津子・宮本健市郎・佐藤隆之訳『学校改革抗争の100年——20世紀アメリカ教育史』東信堂、2008年)を執筆した。
だが、2004年ごろからラヴィッチは自ら支持してきた考えに疑念を抱き始め、ついにはNCLB法を厳しく批判するようになる。テストとアカウンタビリティを重視する教育政策の立案と実施に尽力してきた者がその政策を痛烈に批判するという彼女の言動は注目を集めるところとなり、本書の原著 Reign of Error: The Hoax of the Privatization Movement and the Danger to America’s Public Schools (New York: Alfred A. Knopf, 2013) が刊行された。「間違いがまかり通っている時代」という極めて衝撃的なタイトルがつけられた原著のアメリカでの評判は高く、初版刊行から1年もたたずに再版が刊行されている。
本書は、アメリカの公立学校で進行中の企業型教育改革(Corporate Reform)、すなわち、企業による、企業のための、企業経営手法を取り入れた教育改革をまやかしととらえ、データや図表を駆使してその実態と危険性を暴き出すとともに、民主主義社会におけるのぉましい学校のあり方についてダイアンを提起している。はびこるテスト主義への警鐘を私たちも真摯に受け止めたい。
(東洋学園大学 末藤美津子 評)
【東信堂 本体価格3,800円】