【書評】関礼子・高木恒一編『多層性とダイナミズム――沖縄・石垣島の社会学』

【書評】関礼子・高木恒一編『多層性とダイナミズム―沖縄・石垣島の社会学』

日本社会学会編『社会学評論』第70巻 第1号 2019年7月

 

野入直美(琉球大学人文社会学部准教授)より

 

本書は,立教大学大学院社会学研究科の教育プログラム,大学院生と複数の教員が特定課題の研究に取り組む「プロジェクト研究」の一環として,2014年から2016年に実施された「地域コミュニティと環境研究」の成果である.プロジェクトを担当し,本書の編者となった関礼子,高木恒一は,それぞれ環境社会学,都市社会学を専門としている.各章を執筆した教員と大学院生にも,もともと沖縄研究,石垣島研究を中心に行ってきた研究者はいない.この共同研究は,各自が石垣島のフィールドワークを通じてテーマを探りあて,調査の中で得られた出会いや気づきをいきいきとした形で位置づけて論文集を編み上げていくという手法を採っており,沖縄や石垣島を専門的に扱ってきた研究者がこれまで打ち出してこなかった新鮮な視点が見出せる.

本書の中核ともいえる議論は,関と廣本由香による6章「島人と移住者の『ちむぐくる』―東日本大震災被災・避難者支援のコミュニティ」である.関と廣本が取り組んできた「福島原発事故の被害論」というテーマは,この共同研究が石垣島をフィールドに選ぶにあたって,重要な切り口となっているように思われる.本章では,石垣島への避難者そのものを扱うのではなく,行政の手が及びにくい自主避難者を含めて支えようとする民間の支援グループ「ちむぐくる」に光が当てられ,そのグループ内部のメンバー構成,リーダーシップとアクションの,一枚岩ではない多層性が解き明かされていく.原発事故による石垣島への避難者の来住という非日常のできごとを契機として,地域社会が有してきた相互扶助のポテンシャルが駆動され,同時に,沖縄県外からの移住者と,石垣島育ちの地元民との間の,意識や行動様式の異質性もまた表出する.そのとき,「Uターン者の地元民」という,2つの住民グループを架橋する背景をもったひとりのキーパーソンが,絶妙のコーディネートで活動を牽引していく.まさに「多層性とダイナミズム」である.「沖縄・石垣島の社会学」を打ち立てるにあたって,移住と移動,流動性と可変性,内なる多層性とダイナミズムを重視し,それらをひとりひとりの研究者が渾身のフィールドワークの中に見出していったことに,本書の達成がある.

本書は,関による1章「移動の島の歴史的伸長―弧の思想から合衆国・石垣を描く」と,高木による7章「『場』としての石垣―統計データの中の石垣と統計データから溢れる石垣」によって,石垣島の全体像を俯瞰し,この共同研究のユニークな視点を明らかにしている.その間に,各論が展開されている.

2章,廣本由香による「パイナップルの両義性―台湾移民二世のライフヒストリーにみる『資源』の『地域化』」は,石垣島にパインをもたらした台湾系住民の営為を,「働きかけ」というフレームで,創意工夫に満ちたコミットメントとして捉えている.現在はマンゴー農家である島田長政の,パイン農業をやめた今なお石垣のパインを自分事として語る,複雑で豊かなライフヒストリーがきわめて興味深い.

3章,小松恵による「曖昧化する『境界』―石垣島市街地の台湾出身者への聞き取りから」は,パインとの結びつきで表象されることの多い台湾系住民の中で「見えにくい」存在となってきた市街地で暮らす人びとをとりあげる.台湾系を前面に打ち出すのではなく,ひとりひとりが自己の生を十全に生きようとするときに立ち現れる「台湾」を,「エスニシティを越える」ものとして捉えている.3人の語り手は,いずれも女性である.女性の経験を位置づけることによって,台湾系の同胞組織が有している見解とは少し異なった「台湾」がみえてきたことの意味は,もう少し踏み込んで議論されてもよいだろう.

4章,落合志保による「集落を越えた『共同』―星野共同売店が結ぶもの」は,沖縄本島,とくに大宜味村などの本島北部からの移住民がもたらした共同売店のコスモロジーを,歴史と現在の両方を射程に収めて論じている.

5章,松村正治による「自衛隊配備問題から考える島の未来の選び方―地政学的思考よりも深い島人の経験的世界をもとに」は,自衛隊の問題が起こる前に石垣島を大きく揺るがせた新石垣空港問題の推移を参照しつつ自衛隊配備の是非ではなく,それが十分に地域の人びとによって議論されてこなかったことの問題性を解き明かしている.

この共同研究に加わった大学院生の中には,ここで得られたテーマを発展させて博士論文を執筆している研究者もいるという.本書は,新しい沖縄・石垣社会論として,また大学院生の高度なアクティブ・ラーニングの実践書として,広く読まれるに値する1冊である.各論相互の響き合うような関連性を俯瞰するような章があれば,さらに読者を考察に誘うことができたように感じられたが,この課題についても,今後の研究の展開を楽しみに待ちたい.

(琉球大学 野入直美)

 

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