【書評】礒崎初仁著『知事と権力』

【書評】礒崎初仁著『知事と権力

Governance 2017年12月号 p.133 より

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2003年4月、マニュフェストを掲げて神奈川県知事に当選した松沢成文氏。松沢県政2期8年間では、県議会と激しく対立死ながらも水源環境税や全国初の受動喫煙防止条例など先進的な政策を実現してきた。松沢氏はどのようにマニュフェストを作成し、県庁をどう変えたのか——本書はその自治体運営の実態を詳細に記録・分析した労作だ。

筆者は元県職員で、地方自治論などを専門とする研究者。そして松沢マニュフェストの政策に携わり、松沢県政誕生後は経営戦略会議委員、参与として活躍したブレーンの一人だ。「これまで地方自治の研究や議論は一般書・制度論が多く、そこから漏れてしまう実像、現実のさまざまなアクター(主体)が絡み合って一つの動きをなしているダイナミズムをしっかり捉えたいという気持ちがあった」

また、自治体政権についてしっかりとした事実に基づいた記録が残っている禮がほとんどないことも執筆の強い動機になったという。「県政の歴史を検証しながら、前に進んでいくことは地方自治にとっても、神奈川県という自治体にとっても重要ではないか」と著者は語る。当初は200頁ほどの軽い読み物を考えていたが、正確な記録を残したいと新聞記事や行政資料などを洗い出していくと500頁を超えるボリュームとなった。

松沢県政では政策面でのアピールが際立っていた。「もともと政党に支えられた政権ではなかったので、政策を打ち上げて注目を集め、その実行に期待してもらうかたちで政治的な求心力を維持した。それがやれたのはマニュフェストが一番大きかった」。

民主党政権の失敗により国政レベルでマニュフェストは信用をなくしたが、自治体レベルでは①政策主体の選挙の実現②当選後に緊張関係のある自治体運営を可能とする③任期終了後に結果責任を問うことが可能になる——など大きな価値があるという。松沢県政時代、当初は議会と激しく対立する場面が多かったが、その後は議長マニュフェスト、議員提案条例が提出されるなど「議会の政策機能の活性化にもつながった」とみる。

マニュフェストは首長任期の4年間の政策について書かれ、中長期の課題には対応しきれないという指摘もある。

「そこはマニュフェストの限界だろう。したがって一つは10年、15年スパンの総合計画を策定すること。さらにメディアが中長期の課題についても評価する必要があるのではないか」

「まずは県民の方に読んでいただき、松沢県政の8年間を客観化して、共有財産にしたい」と著者は期待を寄せる。主張をめざす人はもとより、自治体政治に関わる人すべてにとって格好のテキストになる書だ。


地方自治職員研修 2017年12月号 p.84 より

著者が参与として関わった松沢神奈川県政を題材として、制度論ではなく、自治体政権という視点から“生きた地方自治”を描く。松沢知事が、首都圏連合や水源環境税導入などに注力した1期目、多選禁止条例・自治基本条例・受動喫煙防止条例の制定など県政を発展させた2期目にどのようにして県政運営をしていったのか。さらに、3選確実と目されながら、突然の都知事選出馬表明そして辞退した裏に、どのようないきさつがあったのか。2期にわたる県政の観察をマニュフェスト政治の可能性と、自治体政権論を検討する大冊。

 『知事と権力

【東信堂 本体価格3,800円】

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