【書評】鰺坂学・西村雄郎・丸山真央・徳田剛 編著『さまよえる大都市・大阪―「都心回帰」とコミュニティ』

【書評】鰺坂学・西村雄郎・丸山 真央・徳田 剛編著

『さまよえる大都市・大阪―「都心回帰」とコミュニティ』(コミュニティ政策叢書)

(A5、376頁、3800+税)

コミュニティ政策18 中川幾郎(帝塚山大学名誉教授)より

本書は、鰺坂の言を借りると「大阪都市論とその都心コミュニティの両者を焦点」とした共同の都市研究である。そこでは、これまでのインナーシティ問題からスプロール化現象に至る古典的な都市問題ではなく、グローバル化と人口構成の変動により自治体が直面している現下の政策課題、「都心回帰」に問題意識を集中させている。

実は、思いのほか「都心回帰」を主題とした論考は未だに少なく、それと連動した「都市コミュニティ」の変化と実相を探求した論考もきわめて少ない。自治体内における伝統的、在来型住民団体の、総合型住民自治協議体(小規模多機能自治協議体ともいう)への再編あるいは転換は、平成の大合併を契機とした郡部自治体だけの課題ではなく、すでに十数年以上前から都市自治体の課題となっているにもかかわらず、である。その意味で本書はきわめて時宜にかなっており、いわば待ち望まれた論考集である。

本書は、大阪をモデルとした「都市再編」と「都市回帰」を問題意識のベースとしていることだけではなく、流動的な(鰺坂によれば「さまよい」のただなかの)都市政治や都市政策の中で、都心コミュニティのありようが、それらとどのような相関関係を作り出すのかを考察する。第Ⅰ部(1~5章)では、大阪都市圏の郊外化の終焉と「都心回帰」の現状が提示され、「大阪維新」による政治行政改革、つまり「さまよえる大阪」の政治過程の分析がなされる。

第Ⅱ部(6~11章)では、大阪市の明治期以降から現在までの地域住民統治の仕組みが述べられ、続いて1990年代以後の都市部、北区と中央区の大規模マンション建設による地域コミュニティの現状について明らかにしていく。これと並行して、「大阪維新」市政が、住民の統治システム(振興町会と地域振興会連合など)の改変にどのような意味をもたらしたか、についても言及する。

第Ⅲ部(12~16章、終章)では、都心に移動してきた労働者、貧困層、外国人などのマイノリティのコミュニティとアソシエーションの動態を明らかにし、大阪市の都市としての多様性を明らかにする。終章は、大都市大阪市がもつ限界と魅力の中で、大阪市が求心性を回復するための方途についての提言で構成されている。

自治体コミュニティ政策からの関心からみると、都心回帰現象が、大都市の中心部(区)と周辺部(区)との格差拡大をもたらしている(第4章、徳田、妻木)こと、またその中心部への流入階層が、子どものいる核家族、子育て世代であることに評者は注目した。さらに大都市大阪市が、そのコミュニティ政策の基本としている「地域活動協議会」再編、活性化政策の今後の可能性と方向性は、実に大きな課題である。その点からも、住民統治・地域住民組織の歴史的経緯を押さえた第6章(大都市の発展と住民自治・地域住民組織政策の変遷、鰺坂、徳田)の記述は、その基盤を理解するうえで大変貴重である。

そのうえで、第7章(都心の地域社会の変動と町内会、鰺坂他)への理解が進んでいく。特に都心回帰が進む中で、その中心部で拡大し続けるマンションは、今後の都市型コミュニティ政策にあって、無視しえない存在である。

その意味で、第8章(マンション建設と地域社会、鰺坂)は、多くの都市型自治体が参照すべき知見に満ちているといえよう。特に、表8‐4一戸建て住民とマンション住民の近隣の付き合い比較(大阪市中央区)は、戸建て住宅、分譲マンション、賃貸マンションの近隣社会関係を明確に示したといえる。さらに、表8‐5マンション類型別住民の付き合いの程度(大阪市北区)は、分譲と賃貸との関係だけではなく、タワー型分譲と賃貸、ワンルーム型までを明らかにしており、これらに対応した細やかなマンション・コミュニティ政策が都市型自治体に不可避な政策課題となっていることを明らかにしたといえよう。

併せて、第Ⅲ部の貧困、夜間中学、外国人、在日コリアン、新華僑と地域社会の分析、都心と周縁部を見直しての求心性の回復、などは、多様性と社会的構造を熟慮した大都市のコミュニティ政策がそなえるべき視点を提示しており、この論考集の周到な構成を感じさせる。

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