【書評】羽田貴史著『大学の組織とガバナンス』

【書評】羽田貴史著『大学の組織とガバナンス』

(A5、336頁、¥3500+税)

教育学研究 第87巻 第1号 2020年3月

江原武一(京都大学名誉教授)より

 

本書は大学の組織とガバナンスをめぐる問題の整理のために、2000年以降に著者が発表した論文を中心に必要な加筆修正を加えて構成した論文集である。しかし単なる論文の寄せ

集めではなく、組織とガバナンスに関する理論を求めながら積み上げてきたもので、執筆者としては一貫するものであるという。そうした立場から著者は「はじめに」などにおいて、本書の構成を次のように説明している。

 

第1部「大学の組織」は組織に関する論文5本を収録している。第1章「組織とガバナンスをめぐる諸論点」は、それまで散発的に進めてきた組織とガバナンス、マネジメントを統合した視点を整理しようとしたもので、2000年頃に書けていれば、著者自身の組織研究は大きく変わったと思うと位置づけられている。第2章「大学組織改革の何が問題か」は21世紀COEプログラムの一環として実施した「大学の組織変容に関する調査研究」の研究報告書(2007年)の組織論部分に加筆修正したものである。第3章「大学の組織変化と組織改革―連携・連合・統合」と第4章「縮減期の高等教育政策―大学統合・再編に関する一考察」は、国立大学協会政策研究所の委託研究などの成果をもとに執筆され、統合・連携に関しては初出論文以後の変化が大きいため、2010年代の動向をまとめた第5章「2010年代の大学組織改革をめぐる政策展開」が新たに書き起こされている。

 

第2部「大学の運営」は大学運営に関する4本の論文で構成されている。第6章「大学組織の構造と管理運営」は第1部第2章とセットのもので、「大学の組織変容に関する調査研究」の研究報告書に収録された「大学の管理運営の動向」をもとに部分的な修正を行った分析であり、組織構造論と管理運営論をつなぐ章である。調査票は計7,554名の学長・部局長・学科長に送付され(回収率30.8%)、そのうち第6章では大学の管理運営に関する調査項目が主に組織階層別・設置形態別・大学類型別に分析されている。第7章「国立大学法人制度論」と第8章「再論・国立大学法人制度」は、国立大学法人化にともなう制度設計が進むなかで法制度論の批判的な検討を行った章である。第9章「企業的大学経営と集権的分権化」では、企業的大学経営の背景や定義、現象、影響などの文献研究と今後の研究課題の検討が試みられている。

 

第3部「大学運営の主体」は大学運営研究にとって重要な、組織を構成する主体のビジョンや意思決定能力などに関する論文5本を収録している。第10章「教育マネジメント

と学長リーダーシップ論」と第11章「国立大学長の選考制度―誰を、どう選んできたか」は学長を、第12章「国立大学事務職員論から『大学人』論へ」と第13章「高等教育研究と大学職員論の課題」は大学職員を、第14章「ガバナンスにおける大学団体の役割」は高等教育における中間団体として重要な役割を果たす大学団体を中心に扱っており、いずれの論文も既存の言説の批判的分析の視点で執筆されている。

 

著者は研究者が研究を行う際に海図の役割を果たすレビュー(研究動向)の分析を行った上で、大学の組織とガバナンスをめぐるさまざまな問題を批判的かつ縦横に論じている。具体的にとりあげたテーマはガバナンス・マネジメント・リーダーシップ研究の方法論をはじめ、大学組織改革や高等教育政策、大学の管理運営の実態、国立大学法人制度論、企業的大学経営、学長リーダーシップ論、大学職員論、ガバナンスにおける大学団体の役割など、実に幅広く多様であり、今後これらの研究テーマにアプローチする者にとって有益な示唆を与えてくれるだろう。

 

著者にとって(「おわりに」で著者自身が記しているように)、本書の第1章は著者の研究の到達点、結論であるとともに、大学の組織とガバナンス・マネジメント研究の出発点に置きたい章であるという。そして今後の研究課題は次の4点にまとめられている。第一は日本の大学を研究する基本となる組織論を摂取し、ガバナンスやマネジメント、リーダーシップを統合的にとらえる枠組みを創出すること、第二は教育と研究という業務の特質が大学の組織と運営の形態をどのように規定するかを研究すること、第三はマネジメントの具体的方法を批判的分析の立場に立脚して探求していくこと、第四は大学教員や大学職員、さらに企業や官庁から大学の理事会や経営協議会のメンバーのなって大学運営に参加する人びと、それに加えて高等教育研究者の組織文化を解明することである。本書の読者の吟味と批判によって(著者自身も期待しているように)、著者が新たな執筆の意欲にあふれ、反省的思考と再構築を組み込んだ学問研究を通して、これらの研究課題を実質的に究明していくことが強く望まれる。

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