【文献紹介】末松和子・秋庭裕子・米澤由香子 編著『国際共修-文化的多様性を生かした授業実践へのアプローチ』

国際共修-文化的多様性を生かした授業実践へのアプローチ

(A5、328頁、3400円+税)

  末松和子(東北大学)より

 ボーダーレス社会の到来により、言語や文化の壁を超え互いを理解・受容し、協働するために必要な能力の養成がこれまで以上に重視されている。例えば、今年に入って世界を震撼させた新型ウイルスの大流行、またそれに関連した差別やフェイクニュースの流布による混乱など、国・地域や民族を分断するような事態が発生しても、批判的思考力を持ち、多角的な視点で事象をとらえ、冷静かつ柔軟に考え行動できる地球市民の育成は、今や世界共通の目標と言っても過言ではない。多様化・複雑化する社会に求められる汎用的能力、とりわけ、異文化間能力の向上に焦点を当てた教育改革が国内外の高等教育機関で進展する中、本書では、「国際共修」というユニークな教育手法を取り上げ、国際社会を生き抜くために必要な異文化間能力の育成に国際教育の専門家が様々な角度から教育実践に迫っている。

 国際共修を、「言語や文化背景の異なる学習者同士が、意味ある交流(meaningful interaction)を通して多様な考え方を共有・理解・受容し、自己を再解釈する中で新しい価値観を想像する学習体験」と定義し、自然発生に頼るのではなく、教育実践者がデザイナーまたはファシリテーターとして関わる中で、その教育価値を引き出すことに力点を置いている。本書は、国際共修研究チームが数年かけて行った国内外の文献・質問紙・ヒアリング調査と、評価やペダゴジーを含む教育実践につき、国際教育、留学生教育、および日本語教育の専門的知見に基づいた検証を総括したものである。

 近年、国内の高等教育機関で増えつつある国際共修教育実践の充実および研究による知識基盤の形成に寄与することを主たる目的としているが、高等教育の国際化やグローバル人材育成関連の政策・施策の発展に資する実践的な参考資料としても活用できる。また、教育実践・支援者、研究者、政策・施策の立案および決定者などの国際教育ステークホルダーに、国際共修ネットワークの形成と相互研鑽の活性化を呼びかけることも本書の狙いである。この10年間で我が国の高等教育の国際化は進展し、サービス受給者である学生の顔ぶれのみならず、社会の需要や大学に対する期待も大きく変化した。グローバル社会で多様な価値観を持つ人々と理解し合い、協働・共存できる人材を「国際共修」で育てる。この教育実践にご興味のある方には、是非、本書をご一読いただきたい。

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