タイトル 大正新教育の思想
サブタイトル 生命の躍動
刊行日 2015年7月10日
著者 橋本美保・田中智志編著
定価 ¥5280(本体¥4800+税)
ISBN 978-4-7989-1300-1
Cコード 3037
ページ数 584
判型 A5
製本 上製

自主と自由、共感と協働近現代教育と対峙する大正新教育の全体像
国家主義の明治と軍国主義の昭和に挟まれた束の間の幻風景―この大正文化の普遍的イメージは、大正新教育をも覆っていよう。だがそれは、新教育思想の世界的な流れに呼応したわが国初の民間教育運動であり、その教師と子ども一体の溌剌とした実践は、以後の日本教育に稀な躍動感に満ち、戦後の教育に引き継がれるべき重要性を持っていた。本書は、従来不十分であった新教育推進者たちの思想の精細な検討を通じて、この自主と自由、共感と協働の教育の全容を提示し、それが今日の競争と選別の「進化論的」教育を超克する原型ともなる一大潮流であることを明らかにした、画期的な教育思想史研究である。

序 章 大正新教育・再訪 橋本美保
1 はじめに─今なぜ大正新教育なのか/2 ヘルバルト教育学の受容/3 公教育への批判と「新教育」の登場/4 教師の成長とその役割の変化/5 相互活動的な教育関係と教育的思考

第1章 デューイ教育思想の基礎─自然の呼応可能性 田中智志
1 大正新教育とデューイ/2 デューイの自然呼応論/3 デューイ教育諸概念/4 自然呼応論とアガペー  
第2章 ドクロリー教育思想の基礎─全体化と生命 田中智志
1 大正新教育とドクロリー/2 ドクロリーの全体化論/3 ドクロリーの生の教育論/ 4 生命の存在論的了解
第3章 フレネの教育思想─その可能性と射程金森 修 
1 フレネの生涯と教育実践/2 主著『仕事の教育』における自然観と教育観/3 〈乖離的〉な総括 
第4章 モンテッソーリの教育思想 山内紀幸
   ─フレーベルとの決別がもたらしたもの  
1 問題設定/2 期待されたフレーベル主義との融合論/3 モンテッソーリの沈黙/4 フレーベルとの決別/5 モンテッソーリ教育思想の形成/6 結語─フレーベルとの決別がもたらしたもの
  

第5章 八大教育主張の教育理念─愛に連なる生命
    橋本美保・田中智志
1 八大教育主張について/2 八大教育主張講演会の企画と運営/3 教育学術研究大会が終わって/4 八大教育主張の概要/5 アガペーとしての愛の出現/6 アガペーとしての愛の思想史的位置/
第6章 及川平治の動的教育論─生命と生活 橋本美保
1 はじめに─及川の経歴と実践課題/2 『分団式動的教育法』に見る「教育の動的見地」/3 動的世界観の基礎概念/4 動的教育論の特徴/5 及川の生命概念と生活概念/6 おわりに─自由に向かう生命の躍動  
第7章 稲毛金七の教育思想 安部高太朗
1 はじめに/2 稲毛金七と教育/3 創造教育論について/4 おわりに  
第8章 樋口長市の自学主義教育論 永井優美・近藤めぐみ 
1 はじめに/2 樋口長市の経歴/3 樋口の自学主義教育論の特徴/4 川井訓導事件の真相/5 おわりに  
第9章 手塚岸衛の「自由」概念 田中智輝
─千葉師範附小における「自由教育」の実践を通じて  
1 はじめに/2 手塚の「自由教育」における理論と実践/3 「自然の理性化」としての「自由」/4 「創造的連続発展」としての「自由」/5 「自由への教育」と「自由としての教育」を支えるもの/6 おわりに
第10章 千葉命吉の教育思想─「生の哲学」の系譜 木下 慎
1 はじめに/2 生命と問題解決/3 生命の衝動/4 生命の潜勢力/5 おわりに  
第11章 河野清丸の「自動主義教育」論─「灰色教育家」 田口賢太郎 
1 はじめに/2 河野の教育思想への評価─「自動主義」論以前・以後の主張の変節を巡って/3 「八大教育主張」時における河野の「自動教育論」/4 「転向」および教育の目的と方法の問題─「自動主義」以前の河野に遡行して/5 灰色教育家としての彷徨─イメディアの教育思想/6 おわりに  
第12章 小原國芳の「田園都市」 山名 淳
     ─「全人教育」をめぐる行動と物語  
1 はじめに─「新教育」の空間構成という視点/2 「教師が経営する田園都市」─日本の「田園都市」体系における玉川学園の位置/3 都市部からの空間的な遠さと時間的な近さ/4 学園を中心とした生活共同体/5 「田園都市」草創期における労作教育の拠点形成/6 玉川学園における「新教育」のカノン形成/7 おわりに─夢のゆくえ


第13章 橋詰良一の「家なき幼稚園」構想 米津美香
1 はじめに/2 家はなくても幼稚園はできる/3 誕生した七つの幼稚園/4 橋詰の「自然」概念/5 おわりに
第14章 芦田恵之助における生の変容とその思想 松橋俊輔
    ─綴り方教授における「随意選題」論に着目して
1 はじめに/2 明治期の綴り方論/3 芦田の苦しみ/
4 変容はいかにして可能になったか/5 「随意選題」論の内実/6 芦田は何を失ったのか  
第15章 北澤種一によるドクロリー教育法の受容 遠座知恵
    ─全体教育の実践思想 
1 はじめに/2 大正新教育とドクロリー教育法/3 東京女高師附小の改革に与えた影響/4 全体教育の実践とその思想/5 おわりに  
第16章 一九二〇年代の赤井米吉の芸術と宗教 李 舜志
    ─共鳴と祈りの心について
1 はじめに/2 赤井における芸術/3 赤井における宗教/4 赤井における社会/5 まとめ
第17章 北村久雄の「音楽的美的直観」概念 塚原健太
    ─音楽教師としての音楽と生命の理解  
1 はじめに/2 音楽の独自性への認識/3 ベルクソンの持続と美的直観/4 北村の生命理解と教師の役割  
第18章 野村芳兵衛の教育思想─愛と功利の生活教育
木下 慎
1 はじめに/2 野村の大正期の思想/3 野村の昭和期の思想/4 おわりに  
終 章 思想としての大正新教育へ 田中智志
─呼応し躍動するアガペー  
1 大正新教育をめぐって/2 功利主義と個人の発達/3 大正新教育の思想史へ/4 アガペーとしての愛/5 呼応し躍動するアガペー  

あとがき 
人名索引  
事項索引  
執筆者紹介  

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