【文献紹介】大森秀子著『成瀬仁蔵の帰一思想と女子高等教育―比較教育文化史的研究』

成瀬仁蔵の帰一思想と女子高等教育―比較教育文化史的研究

(A5、296頁、3200円+税)

  大森秀子(青山学院大学)より

 グローバル時代の多信仰社会にあって、各国の移民問題への対応は、統合と排除の議論の狭間で、宗教を道具にして民族や国家の分断へと追い込んでいるようにみえる。他方、アジアの女子教育は混迷を極める中、抑圧された女性に対し、教育をどのように普及発展させていくかが、今日的課題となっている。

 本書は、現代の宗教的共生と女性のための教育へ向かう一つの史的モデルを提供する研究として、国際社会における宗教間対話と日本の女子高等教育の道を拓いた成瀬仁蔵(1858~1919)を取り上げ、比較教育史という観点を用いて成瀬の思想形成の全体像の解明を試みたものである。具体的には関係比較の視角から、成瀬仁蔵という一人の日本人がアメリカ留学によって宗教と女子高等教育の面でいかなる影響を受け、その後も続く日米交流やアメリカ思想への接近によって何を受容したのか、また、並置比較の視角から、留学後に形成される成瀬の思想が原理的に同時代の人物・学校・団体の目指す構想とどのように類似、あるいは相違しているのかを解明している。

 本書が前書『多元的宗教教育の成立過程―アメリカ教育と成瀬仁蔵の「帰一」の教育』の続編であることから、本論7章のうち、新資料を通じて考察した内容を中心に紹介する。第1章で留学前の成瀬を武士道に接木したキリスト者として位置づけ、第2章で留学中の日記・ノート・収集カタログの分析を通じて、彼が移民社会アメリカの問題を見抜くと共に、女性にとっての娯楽や社会教育・社会事業の優位を吸収し、女性と児童をめぐる学問領域へと導かれる経緯を明らかにしている。第3・4章では、書簡・雑誌・講演原稿・成瀬蔵書・各学校史・宣教会議文書の検討から厳本善治、チャールズ・エリオットの思想、神戸女子学院・青山女子学院・東京女子大学等が表明した理念や女子高等教育思想と比較し、成瀬が日本女子大学校でリベラル・エデュケーションと専門教育との調和という女子高等教育のモデルの新機軸を打ち出した点を指摘した。

 アメリカ現地調査によって発掘された、エリオットやニコラス・バトラーとの往復書簡を含む成瀬文書の分析を通じて、帰一運動が平和運動の流れの中で一定の成果を挙げることのできたネットワークを解明した第5章に続いて、6章・7章で帰一協会会員の多様な見解と差異化される成瀬の見解を多元的宗教的教育の方法論的モデルとして提示した。日本の宗教教育や女子大学の新たな方向性を展望するための歴史的な問題や課題を整理する一助となれば、幸いである。

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