【書評】濱名篤著『学修成果への挑戦ー地方大学からの教育改革』

IDE 現代の高等教育 No.611 2019年6月号 Book Review

濱名篤著『学修成果への挑戦ー地方大学からの教育改革ー

 

山田 礼子より

学修成果の可視化、学修成果につながるカリキュラム、学習方法の開発、学修成果測定等、学修成果を巡る話題はつきない。事実、高等教育政策自体も学修成果志向政策へシフトしているが、その契機となったのは、2008年の中央教育審議会の答申であった。それ以降、各大学が自らの教育理念と目標に基づき、学生の成長を実現する学習の場として学士課程を充実させることが強く求められてきた。その後の中教審の議論を通じても一貫して学士課程の充実は重要な論点として位置づけられ、2012年の同答申では、より学修成果が意識されていた。さらには、2016年の学校教育法施行規則に伴い、学位プログラムを単位として、学位授与・卒業認定に関する方針(ディプロマ・ポリシー)、教育課程編成の方針(カリキュラム・ポリシー)、入学者選抜の方針(アドミッション・ポリシー)の3つのポリシーを見直し、公表することが各大学に求められるなど、教育の質保証と学修成果は切り離せない関係となっている。

著者である濱名篤氏は、学修成果志向政策に向けて中教審等を通じて積極的な発言を行てきたオピニオンリーダーの一人であるだけでなく、自身が学長をつとめている関西国際大学においてそうした学修成果の具現化を実践してきた人物である。

本書は、学修成果志向政策の実現に向けての氏の考えが随所にちりばめられているが、そうした考えが理念および構想としてだけでなく、実践として一体化しているところに本書の意義がある。

序章「いま大学に何が求められているのか」、第1章「私たちはどのような教育の未来をめざしているのか」、第2章「地方の活性化とイノベーション」、第3章「地方小規模大学のチャレンジー関西国際大学の取り組みと課題」、第4章「多様な学生をどう育てていくのか」、第5章「これからの教学マネジメントの課題」という内容で構成されている。

氏の日本の高等教育政策や大学教育に関する問題意識、その問題意識に基づいて改革を実施していくべき処方箋等がクリアに反映されているのは、第1章、第3章、第4章に他ならない。筆者の大学教育を改善しようとするモティベーションの根底には、大学教育はスタティックではなく、常に動いているべきとの信念がある。したがって、労働市場、大学を取り巻く世界の環境変化に応じて、教育改革を継続せねばならないし、学修成果も常に見直す必要があると見ている。そのためにも、大学として「アセスメント・ポリシー」をしっかりと立て、そのもとで学修成果をアセスメントしなければならないという立場が本書の根底にある。先述した3つのポリシーと比較すると、アセスメント・ポリシーを大学のポリシーとして設定している大学は決して多くはない。おそらく、アセスメントの根拠を示し、尺度を設定・選択し、そして構築していることは、具体化を示すことの困難性と教員の限りない努力と振り返りが不可欠であるから容易ではないのだろう。

関西国際大学では、こうしたアセスメント・ポリシーを3つのポリシーに加えて構築し、実際に動かしている。その鍵の一つが学修のセルフチェックや目標設定ができる「KUIS学修ベンチマーク」である。こうしたベンチマークを設定するには、大学としてどのように学生を育成するか、どのような学習成果を獲得させるかの教員間の合意があることと、学生の実態を把握していなければ難しい。理想形としてベンチマークを設定したものの、実際には「絵に描いた餅」で終わることも少なくないのが現実であろう。しかし、本書にも書かれているように、初年次教育の実践、そして総合化した初年次教育への発展に加えて、学生が海外で体験的に学ぶ「グローバルスタディ」の導入と実践により、「KUIS学修ベンチマーク」を機能させている。

2016年に学習成果の「設定」状況および「検証」について、国内の4年制(6年制)大学755校を対象に実施した大学基準協会調査では、「能力項目の到達水準を明記し、具体的に設定している」大学は少数で(「全学単位」6.8%、「学部・学科単位」15.9%)、無回答の大学も多いことが判明している。その意味でも、本書のタイトルにあるように著者の問題意識からスタートした大学内での施策と実践の一貫性は、学修成果の弛まない挑戦と捉えられるのではないか。

最後に期待を込めて疑問点を2点ほど提示したい。本書を通じて、著者を含めた関西国際大学の教員は小規模大学の威信をかけて、学修成果の挑戦を継続していることは敬服に値することは間違いない。しかし、学生への対応が十分すぎるともいえなくはないだろうか。著者は、「学生自身に評価の重要性を理解させ、自己評価能力を高めることを目標とした授業を行うことにした」ということで、「評価と実践」という科目を提供することにしたとある。教員が十分な教育と対応を行う環境に慣れている学生が、いかにして自己成長と自己評価の能力を高めていくのか。しばし、学生の自主性と自立性に任せざるを得ない大規模大学の教員の感覚でもあるが、与えられることに慣れている学生の自主性・自立性との関係はどうなのだろうか。

次に本書は地方小規模大学の存在理由としての考え方や実践が全体に描かれている。やはり、これだけの挑戦は、小規模大学にしかできないものなのだろうか。多様な教員が多く在籍している大規模大学への示唆は何かあるのだろうか。

[東信堂 四六判 288頁 定価2592円]

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