【書評】両角亜希子著『学長リーダーシップの条件』

両角亜希子著 『学長リーダーシップの条件』

(A5、216頁、¥2600+税)

IDE 現代の高等教育 No.622 2020年7月号 Book Review

吉武博通(東京都公立大学法人理事、筑波大学名誉教授/経営管理)より

 

学長のリーダーシップは、ガバナンス改革をはじめとする近年の大学改革において最も重視されている要素の一つである。その一方で、リーダーシップとは何か、その認識が十分に共有されることなく、権限の位置づけや意思決定プロセスという組織・制度の問題と一括りにして論じられてきたことは否めない。この点において、「問題はガバナンスの在り方ではなく、むしろ経営能力の不足・欠如ではないだろうか」との編著者の問題意識は深く共感できるものである。

 

本書は、独立した7つの章により構成されている。各章において関連する先行研究が検討された後、質問紙調査に基づく統計分析、インタビュー、資料・文献調査などを踏まえた考察が行われている。全章を通して、学長のリーダーシップの条件を多面的かつ客観的な方法で明らかにしたいとの編著者および各章執筆者の熱意が伝わってくる。

 

第1章では、大学上級管理職を、学術管理職(学長、副学長、学部長、研究科長等)と経営管理職(理事長、理事、事務局長等)に区分し、担当業務の実態と遂行に必要な能力、現職までの経験と教育・研修の実態、経営人材養成の将来への展望について検討を行っている。大学の設置形態や規模により回答傾向に違いが見られるが、学内の組織運営を円滑に進める観点から大学内部の経験や知識が重視される一方で、学外での経験や専門機関による人材養成への期待が高いことも明らかにされている。

 

これを受ける形で、第2章では、大学団体、日本私立学校振興・共済事業団、政策研究大学院大学、東北大学等が提供する大学上級管理職向け研修・教育プログラムの内容、形態、参加者等の現状がまとめられている。全体像を把握できるだけでも十分に有益だが、教育・研修機会が広がり、参加者の満足度が高いにもかかわらず、こうした機会を活用しない上級管理職が多いという現状をどのように考えるかとの課題認識にこの問題の本質や難しさが表れている。また、学部長を対象とした研修がほとんど存在していないとの指摘も重要である。

 

学部・学科という大学の基本構成単位におけるリーダーシップは今後の大きなテーマになると考えられるが、第3章では、『カレッジ・アドミニストレーターのためのサバイバルガイド(The collage Administrator’s Survival Guide)』(Gunsalus, 2006)の概要を紹介した上で、現場で期待されるリーダーシップの要素として、深い自己認識、期待の明確な表明、他者に対する配慮と尊重、コミュニケーション(特に聴く姿勢)、公平・公正の堅持、責任領域の順守、学内規定の順守、手続きの尊重、記録作成と記録共有の励行、という9つを抽出している。

 

教員自身は大学運営の現状をどう捉えているのだろうか。東京大学大学経営・政策研究センターが2013年2月に実施した「大学における意思決定と運営に関する調査」(教員調査)の結果を分析し、考察しているのが第4章と第5章である。ビジョン提示や構成員の意見聴取の観点での現執行部への不満の高さが、「任せられない」「教員がもっと参加するしかない」という発想につながっていること、教員の大学改革や大学経営・管理に対するモチベーションは全体的に低くないことなどの指摘は、今後の運営を考える上で重要な視点である。

 

以上の論考を受ける形で、質問紙調査の結果に基づき、学長の属性や機関属性が、学長の職務遂行にどのように影響するのかを統計分析により明らかにすることを試みたのが第6章であり、困難な改革を実現し、大学の発展に結びつけている学長11名に半構造化インタビューを行い、得られた知見をまとめたものが第7章である。第6章で特に興味深いのは、個人属性や機関属性よりも、これらの属性に現れない個々人の個性や努力の違いが職務遂行により大きな影響を及ぼしている可能性を指摘している点である。また、第7章では、インタビューにおいて発せられた学長の言葉を紹介しながら、学長に求められるリーダーシップとその要請について検討が行われている。量的調査と質的調査の両面から学長のリーダーシップに迫ろうとする試みは重要であり、これらの成果と課題を踏まえた本領域の研究のさらなる進展を期待したい。

 

リーダーシップは、社会心理学や経営学をはじめ複数の学問領域で研究が行われ、発展を遂げつつあるが、残念ながらこれらの理論から学び、実践に結びつけようとする意識が、企業を含め我が国全体に根付いているとは言い難い。

 

大学には国内外を問わず様々な場でリーダーシップを発揮できる人材を育成することが求められている。その大学がリーダーシップの本質に向き合うことなく、組織や制度を弄ることばかりに労力を費やせば、果たすべき本来の機能を高めていくことなど到底できない。

 

編著者や執筆者の問題意識も同様であろう。同時に、本書を読み進むうちに、学長を含む上級管理職のリーダーシップ養成に向けた手がかりが見え始めたようにも思う。立場を超えて多くの大学関係者に一読を薦めたい。

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