【文献紹介】両角亜希子編著『学長リーダーシップの条件』

学長リーダーシップの条件

 (A5判、216頁、2600+税)    

               松浦 良充(慶應義塾大学)

 大学史を繙くと、歴史に残る大きな変革が学長の名とともに記される事例に遭遇する。創設時の学長の名がその多くを占めるが、たとえばアメリカではハーバード大学の学士課程似自由選択制が導入された時のエリオット、シカゴ大学でグレート・ブックスのカリキュラムを採用したとされるハッチンズなどである。とは言え、よほど小規模の大学でない限り、その創設や大きな改革が、学長単独の力で成し遂げられるとは考えにくい。それはたまたまその学長の任期(時代)に行われたことであって、必ずしもその学長が主導的な役割と果たしたとは限らない。場合によっては、学長自身の思想や意図にそぐわなかった可能性もある。

 現代大学の組織構造は、社会制度としては国家や経済・産業界との関係、学内的には数学と経営、さらにはそれらを支える官僚制的事務機構との連携など、複雑性を増している。もはやカリスマ的な学長の存在や力に頼ることは不可能であるし、適切であるとも考えられない。

 それでも大学のガバナンス改革を志向する政策動向のなかで、学長リーダーシップへの関心や期待が高まっている。国立大学の法人化や2014年の学校教育改正がその象徴である。しかし、「学長リーダーシップとは何か、またどのようにリーダーシップは発揮できるのか等、よくわかっていないことも多い」(3頁)と本書の編著者は指摘する。本書は、序章、終章を除く全7章の論考を、第1部「大学上級管理職のしごと・研修の実態」、第2部「学長たちはどう育ち、どう改革をリードしているのか」の構成に編み上げ、主として実証的なアプローチから、学長を含めた大学上級管理職の現状をめぐる諸側面について、その実態、意識、課題などを解明しようとしている。各章は、編著者がいくつかの大学紀要に掲載した単著および共著論文で構成されているが、第3章のみ別著者による書き下ろしの単著論文である。

 本書に一貫するのはガバナンス改革によって学長に権限を集中させるだけでは、そのリーダーシップの実現が可能になるわけでない、学長などの上級管理職の経営者としての能力を高める人材育成が必要だ、という主張である。

 こうした本書のねらいやアプローチ方法を説いた序章に続き、第1章では、大学上級管理職について、学術管理職と経営管理職それぞれの経営能力養成の現状と将来展望を、質問紙調査のデータを用いて考察している。第2章では、国立大学協会や日本私立大学連盟などの大学団体や個別の大学、さらに日本IBMが主宰する天城学長会議など、これまで大学上級管理職育成の主要な役割を担いながらその実態が必ずしも明らかでなかった研修事業について、現状と課題を検討する。第3章では、イリノイ大学のGunsalusによるThe College administrator’s Survival Guide の概要を紹介し、アメリカの大学マネジメント論とリーダーシップ論の観点から学部長や学科長の職務について検討する。第4章では、大学の意思決定や運営に対する教員の志向性とその規程要因について、質問紙調査のデータ分析を通して考察している。以上が第1部である。

 続いて第2部として、第5章では、大学教員の改革や経営、管理・運営のモチベーションの現状と規定要因、さらに管理職のイメージやその就任への志向性とその規定要因について、やはり質問紙調査のデータを用いて分析している。第6章では、学長の個人属性や機関属性、すなわち役職経験や在任年数、取得学位や研修経験、さらに設置形態や在学学生数、所在地などが、大学経営に与える影響を実証的に検討する。第7章では、学長11名に対して実施した半構造化インタビューを素材として、学長としての必要な能力や大事にしていること、経歴や有効な経験、学長人材の育成に関する考え方などについて、調査・分析している。

 終章では、本書のまとめとして学長や上級管理職への単なる権限や予算の付与にとどまらず、育成という観点の重要性が強調されている。さらに本書の実証研究に加えて、編著者たちがアクションリサーチ手法によって、学長セミナーを試行していることが紹介されている。

 学長の権限強化と教授会(教員)の大学運営裁量の縮減が、リーダーシップの「条件」とされるような昨今の政策動向に対して、実証研究を駆使して「育成」の観点を強調する本書の姿勢は、今後の大学研究に貴重な一石を投じるものとなっている。今後、歴史的な観点も含めて、海外の実態や動向についての詳細な検討も加われば、これからの日本の大学像と学長像の展望もより拓けるのではないか、との期待をもって本書を読了した。

(日本教育学会編『教育学研究87号』掲載)

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